営業の成績が、一部のメンバーに偏っている。いわゆる属人化です。これを直そうとするとき、多くの組織は「売れる人のやり方を、他のメンバーに広める」ことから始めます。成功事例を共有し、トークを真似させ、同じ動きを求める。
私もそうしてきました。ただ、それだけでは偏りは直りませんでした。この記事では、私が経験した偏りの正体と、それを配分から見直した話、そして売れる人のやり方をどこまで移せたかを書きます。
結論:偏りの原因は、能力ではなく配分にあることがある
先に結論を書きます。営業成績の偏りは、個人の能力の差だけで生まれるわけではありません。誰がどの顧客を持っているか、という案件の配分が偏りをつくっていることがあります。その場合、やり方をいくら共有しても差は縮まりません。直すべきは配分のほうです。
そして、売れる人のやり方を移すことにも限界があります。私の経験では、営業トークは移せました。ただ、地道な努力は移せませんでした。
偏りの正体は、案件数の差だった
広告媒体の営業をしていた頃、チームの中で私と、他のチームから異動してきた先輩との間に、成績の差が生まれていました。
振り返ってみると、その差の正体は営業力ではありませんでした。持っている案件の数が違っていたのです。既存の代理店との取引を多く抱えている側は、それだけで数字が積み上がります。一方、異動してきたばかりで既存の取引が少ない側は、同じように動いても数字になりにくい。案件数の差が、そのまま売上予算の差になっていました。
この状態で「もっと頑張れ」と言っても、あるいは「売れている人のやり方を真似しろ」と言っても、差は縮まりません。スタート地点が違うからです。
上位の代理店を、すべて渡した
そこで取った手は、配分を変えることでした。
売上上位5社の既存代理店を、すべて先輩に渡しました。そのうえで私自身は、新規の獲得を目指すことにしました。数字を作りやすい顧客を手放し、ゼロから開拓する側に回ったわけです。
結果として、チーム全体の活動量が上がり、チームの売上にも良い影響が出ました。
なぜそうなったのか。考えられるのは、それぞれが力を出しやすい場所に配置し直されたことです。先輩は、既存の大口顧客を持つことで、すぐに成果を出せる状態になりました。私は、既存顧客に頼れない状況に身を置いたことで、新規開拓に全力を向けるしかなくなりました。どちらも、配分を変える前より動く理由がはっきりしたのです。
ここで大事なのは、成績の良い側が顧客を手放すことに意味があったという点です。上位の顧客を持っている人は、それを維持するだけで一定の数字が出ます。居心地は良いのですが、新しいことに挑む理由がありません。数字を作りやすい場所から一度離れることで、チームに新しい動きが生まれることがあります。
売れる人のやり方は、どこまで移せるか
配分とは別に、売れる人のやり方をチームに広める取り組みもしました。
チームのミーティングで、うまくいった事例を本人に発表してもらい、他のメンバーにそれをなぞってもらう。よくあるやり方ですが、やってみて、移せるものと移せないものがはっきり分かれました。
移せたもの:営業トーク
顧客に何をどう伝えるか、どの順番で話すか、どんな言葉が響いたか。こうしたトークは、発表を聞いて真似することで、かなりの部分が移せました。言葉にできるものは、共有すれば伝わります。
移せなかったもの:地道な努力
一方で、移せなかったのが地道な努力です。成果を出している人は、トークが上手いだけではありません。見えないところで、何度も足を運び、断られても次の提案を持っていく。その積み重ねが成果の土台になっています。
ところが、この部分は事例を発表しても伝わりません。話を聞いて「なるほど」と思っても、翌日から同じ量を動けるかは別の問題だからです。
地道な努力が移らない理由
メンバーの育成を振り返って思うのは、伸びた人とそうでなかった人の一番の違いは、成長したいという意欲でした。そしてもうひとつ、行動量に対する許容度の差も大きく関係していました。どれだけの量を動くことを自分に許せるか、という感覚です。
トークは技術なので、教えれば移ります。しかし行動量への許容度は、本人の中にある感覚で、外から渡すことが難しい。だからこそ、やり方の共有だけに頼らず、配分によって動かざるを得ない状況をつくることに意味があります。上位の顧客を手放して新規に回った私自身がそうだったように、置かれた場所が変われば、動く量も変わります。
成長の段階で言えば、1年目はうまくいっている人を真似し、2年目でトップを取り、3年目で自分なりのやり方に変えていく、というのが良い流れだと考えています。やり方の共有が効くのは、この1年目の段階です。その先に進むには、真似では届かない量と工夫が必要になります。
まとめ
営業成績の偏りを見たとき、まず確認したいのは、それが能力の差なのか、配分の差なのかです。持っている案件の数や質に差があるなら、やり方をいくら共有しても差は縮まりません。配分を見直すほうが先です。
売れる人のやり方を移す取り組みにも意味はあります。ただ、移せるのはトークのように言葉にできるものまでです。地道な努力や行動量は、共有では移りません。そこは、配分や役割を変えることで、動く理由をつくるほうが効きます。
目標の置き方と進捗の見方については、詰めない営業目標管理のつくり方で書いています。営業組織の配分や育成の仕組みを見直したい場合は、営業組織のマネジメント支援としてご相談を承っています。ご相談は無料です。