社長は、相談できる相手がいないまま判断を重ねる仕事です。社内の人間に話せば人事や士気に影響し、取引先には弱みを見せられない。家族に話しても、事業の細部までは伝わらない。結果として、重い判断ほど一人で抱えることになります。
私自身、似た状況に置かれたことがあります。そのとき助けになったのは、正しい答えを教えてくれる人ではありませんでした。この記事では、その経験をもとに、経営者にとっての相談相手が何の役に立つのか、そしてどう選べばよいのかを整理します。
社長が誰にも相談できない理由
社長が相談相手を持ちにくいのは、性格の問題ではなく立場の問題です。
社員に迷いを見せれば、組織は不安になります。幹部に相談すれば、それ自体が人事上のメッセージとして受け取られることがあります。取引先や金融機関には、弱っている姿を見せたくありません。同業の知人には、競合として話せない部分があります。
つまり、社長の周りにいる人は、ほぼ全員が何らかの利害関係者です。本音を話すほど、その話が別の意味を持ってしまう。だから話さない。その積み重ねで、判断の重さが一人に集中していきます。
知見がないまま、判断だけを求められた
私が同じ状況に近かったのは、新しい通販サイトの立ち上げで責任者を任されたときです。
異動で就いたポジションで、その領域の知見は十分ではありませんでした。それでも責任者である以上、判断は毎日のように求められます。何を優先するか、どこまで進めるか、誰に何を任せるか。正解が分からないまま決め続けなければならない状態でした。
そして、それを誰にも相談できませんでした。部下には迷っている姿を見せられない。周囲の部署に聞けば、責任者なのに分かっていないと思われる。結局は一人で抱え込み、正直に言って、かなり参っていました。
規模は違っても、これは多くの社長が日常的に置かれている状況だと思います。新規事業、採用、撤退、価格改定。どれも前例がなく、正解が見えないまま決めなければならない判断です。
助けになったのは、答えではなかった
その状態から抜け出せたのは、上長の関わりがあったからです。
上長がしてくれたのは、正しい答えを教えることではありませんでした。私が抱えていた仕事の一部を引き取ってくれたこと。そして、判断は十分でなくてもよいと言ってくれたことです。
この2つで、状況は大きく変わりました。抱えている量が減ったことで、考える余裕が戻りました。そして、完璧な判断でなくてよいと許されたことで、決めることへの恐れが小さくなりました。結果として、判断そのものが前より速く、落ち着いたものになりました。
振り返って思うのは、あのとき私に足りなかったのは知識よりも、判断の重さを分けてくれる相手だったということです。答えを教えてもらっていたら、その場は楽になったかもしれません。ただ、次の判断ではまた同じ状態に戻っていたはずです。
相談相手が果たす、3つの役割
この経験から、相談相手の役割は大きく3つに分けられると考えています。
答えを出す
知識や経験が足りないことが原因なら、専門家に答えを出してもらうのが近道です。税務なら税理士、法務なら弁護士、事業戦略ならコンサルタント。何をすべきか分からないときには、この役割が必要です。
考えを整理する
判断材料はそろっているのに決められない、というときは、答えではなく整理が必要です。話しているうちに、自分が何を大事にしているのか、何を恐れているのかが見えてくる。これはコーチングが担う役割です。
重さを分ける
そして見落とされがちなのが、3つ目です。一人で背負っている判断の重さを、少しだけ一緒に持ってもらうこと。私が上長から受け取ったのは、これでした。
重さが分けられると、人は落ち着いて考えられるようになります。逆に、一人で抱え込んでいる状態では、答えを教えてもらっても整理を手伝ってもらっても、なかなか決断まで届きません。
社長には「上長」がいない
ここで、会社員と社長の大きな違いに行き当たります。
会社員には、判断の重さを一緒に持ってくれる上長がいることがあります。私が救われたのも、その存在があったからです。しかし社長には、その役割を担う人が組織の中にいません。社長が最終的な判断者である以上、「十分でなくてもよい」と言ってくれる上の立場の人はいないのです。
だからこそ、経営者には社外の相談相手が必要になります。利害関係がなく、話したことが社内の人事や取引に影響せず、判断の重さを一緒に持ってくれる人。いわゆる壁打ち相手です。
壁打ち相手を選ぶときの基準
社外の相談相手にはいろいろな選択肢があります。同業の経営者仲間、顧問税理士、コンサルタント、コーチ。それぞれに強みがありますが、選ぶときには次の点を確認するとよいと思います。
利害関係がないこと。取引関係がある相手や、同じ市場の競合には、どうしても話せない部分が残ります。本音で話せることが、壁打ちの前提です。
答えを急がないこと。すぐに結論を出してくれる相手は頼もしく見えますが、判断の軸が自分の中に育ちません。考えを整理する時間を一緒に取ってくれるかどうかは大事な点です。
守秘が前提になっていること。経営の迷いは、外に漏れると信用に関わる話が多くなります。守秘義務を負っている立場の人か、少なくとも守秘を明言している人を選ぶべきです。
必要なときには答えも出せること。整理しているうちに、知識が足りないことが原因だと分かる場合もあります。そのとき、答えを出す側にも回れる相手であれば、一度の相談で先に進めます。
コーチングとコンサルティングのどちらが向いているかは、コーチングとコンサルティングの違い|中小企業の社長はどう使い分けるかで整理しています。
私がコーチングを学んだ理由
私は中小企業診断士として、事業の数字を分解し、答えを出す仕事をしてきました。そのうえでコーチングを学んだのは、自分の専門分野ではない悩みにも向き合える自分でありたかったからです。
学ぶ過程で、自分がコーチングを受ける側になったこともあります。そのとき、自分では考えつかなかったことが、自分の中から出てくる感覚がありました。答えを教えられたのではなく、自分の中にあったものに気づかされた。その感覚には、正直に言って感動を覚えました。
一人で判断を抱えている社長にとって、必要なのは必ずしも答えではありません。重さを分け、考えを整理し、必要なら答えも一緒に出す。その3つを行き来できる相手が、壁打ち相手として一番役に立つと考えています。
まとめ
社長が相談できないのは、周りのほぼ全員が利害関係者だからです。そして社長には、判断の重さを一緒に持ってくれる上長がいません。だからこそ、社外に壁打ち相手を持つ意味があります。
相談相手に求めるのは、答えだけではありません。考えを整理すること、そして重さを分けること。いま一人で抱えている判断があるなら、それがどの種類の助けを必要としているのか、一度考えてみてください。
話す相手が見つからない場合は、コーチングでお手伝いできます。初回1時間は無料でお試しいただけます。何を相談すればよいか分からない、という段階でも構いません。